図書館をめぐる二つのおはなし
先日、マリの図書館から古文書が救出されたことがニュースになっていたのを、記憶している人もいるだろう。
以下、その記事のコピー。
http://mainichi.jp/select/news/20130202k0000m030189000c.html
マリ古文書救出:2万5000点、粉ミルクや米の袋で隠し
毎日新聞 2013年02月02日 02時30分
【バマコ(マリ南部)服部正法】イスラム過激派が支配する街で、ひそかに続けられた古文書救出作戦。
交易商人の手助けで世界的に貴重な遺産の多くは安全地帯に届いていた。
世界遺産であるマリ北部の都市トンブクトゥから移送されたアフメド・ババ高等教育・イスラム研究所所蔵の古文書
は約2万5000点に及ぶ。アブドゥルカドリ・マイガ同研究所長が毎日新聞の取材に作戦の詳細を語った。
マリ北部は昨年4月、世俗主義の反政府武装組織やイスラム過激派が制圧した。
5月以降、偶像崇拝の禁止に厳格な過激派が、トンブクトゥにあるイスラム教指導者の聖廟(せいびょう)を破壊。
7月には世俗主義組織を北部の各都市部から追い出し、支配を固めた。
マイガ所長によると救出作戦は昨年10月に実施した。
バマコに避難していた研究所員らが約1200キロ離れたトンブクトゥに潜入。
街中をパトロールする過激派戦闘員の目を避けながら、深夜などに研究所から徐々に文書を回収した。
最終的には、研究所が所蔵する古文書約4万5000点のうち、
旧棟に保存されていた約2万5000点を運び出すことができた。
だが、南アフリカ政府の支援で建てられた新棟は過激派が放火し、
約2万点の所蔵文書の多数が焼失・破損した可能性があるという。
反政府武装組織やイスラム過激派は旧棟にはあまり関心を払わなかった。
マイガ所長は「建物が古くて、汚い感じがしたからだろう」と言う。おかげで古文書は難を逃れたとも言えそうだ。
古文書は衣装箱に入れ、複数回に分けてバマコ行きのバスやトラックで運んだという。
移送には、トンブクトゥとバマコの間でさまざまな商品を取引する交易商人の助けを借りた。
商人は文書入り衣装箱の上に、粉ミルクや米の袋など実際の取引商品を載せてカムフラージュした。
到着を待ち構えた研究所員らがバマコで受け取った。
マイガ所長は「大きな危険を伴う作戦だった」と振り返る。
イスラム過激派は1月に軍事介入したフランス軍とマリ政府軍の共同作戦を受けトンブクトゥから撤退した。
このニュースを聞いて自分が感じたことはといえば、
「悪いムスリムもいれば良いムスリムもいるってことか」くらいだった。
(それにしても、イスラム教指導者の聖廟を破壊って何なの。仏像だけじゃ気が済まないのか!)
そんな知識を頭の片隅において過ごす日々の中、本屋の店頭でこんな本を見かけた。
3万冊の本を救ったアリーヤさんの大作戦―図書館員の本当のお話
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以下、ネタバレ。
2003年のイラク戦争直前、バスラの図書館で司書をしていたアリーヤ(女性)は、
このままでは図書館が戦火に巻き込まれるのではと危惧していた。
彼女は、まずバスラ県庁の役人に本を他の所に移す許可を求めるが、却下される。
やがて、図書館の屋上に対空砲が設置されるのを目の当たりにした彼女は、決意を固める。
軍人でごった返す図書館の中から、抱えられるだけの本を持ち出し、自宅に持ち帰ったのだ。
それを続けて一週間の後、とうとうイギリス軍がバスラに侵攻。町は混乱に陥る。
侵攻の翌日、図書館に向かった彼女は、軍人達が逃げ出したこと、そして
混乱に乗して図書館の備品が全て〜絨毯から鉛筆削りにいたるまで〜盗まれたのを知る。
しかし、泥棒どもは蔵書には一切手をつけていなかった(苦笑
が、戦火がいつこの場所を襲うかわからない今、本をこのままにはしておけない。
アリーヤは図書館の隣のレストランの店主に呼びかけ、本を避難させることにする。
レストランの店主は従業員を集め、知人に呼びかけ「大作戦」が始まった。
それは、ごくシンプルな作業、ただの民間人がやれること〜本のバケツリレーだった。
図書館の中から本を出口まで運ぶチーム。出口から図書館とレストランの塀まで持ってゆくチーム
そして塀越しに本を受け取ってレストランの中に運び入れるチームだ。
「彼らは夜も昼も働いた。夜明けの光が差してもなお働いた。
みんな疲れていたけれど、遠くから聞こえる戦争の音にかりたてられて、作業を続けた。(本文より)
そして夜が明けると、さらに多くの地元の人が作業に加わる。
地元の人、通行人……本を愛する者、書籍に触れたことすらない者……。
こうして数多くの蔵書が運び出されたのだった。
図書館はその夜に火事になってしまうが、アリーヤさんたちの助力で救われた本は3万冊。
現在、アリーヤさんは新しい図書館の設計と建築の仕事に携わっている……。
どちらも、きっかけは本を愛する人だけど、
多くの人々が手を貸さないと成し遂げられなかった偉業なのだなと思う。
その人達は、きっと日頃は本などなんとも思わない類の人種も多かったろうけど、
戦火の下では、何かしたい、何か守れるものがあるはずだ、と侠気を奮発してしまったのだろうな。
(アトランタが炎上した途端、南部義勇軍に志願したレッド・バトラーのように)
個人的には、どちらも運び出せた点数が二万五千&三万と、同じような数字なのが興味深い。
時間や移動距離、条件は異なるが、人海戦術の限界がこのあたりなのだろうか。
何にせよ、この事業に携わった人にこの極東から感謝の意を捧げたい
……それにしても、10年前に同じようなことが行われていたとは。
人類はいつまでもバカで、そして、バカを克服しようとがんばってもいるのだなぁ。
ああ、どうすればもう少し、先に進めるだろう?