「氷菓」のアニメが評判が良いようなので、ご祝儀レビュー

始まる前は「またずいぶんと奇妙なとこからコンテンツ掘り出してきたなぁ。
さすがの京アニでも、これ当てるのはむずかしかろう」と思っていたのですが
動き出してみたら、なんとまぁ鉄板な出来ですこと。
割と古めかしい校舎&放課後のなんということのない日常、という
過去に当てた作品のポインツ全部抑えた作りになっていて、
そいや原作もこの要素ちゃんとあったわと感心しました。
アレか、角川文庫の作品を全部5W1Hの箇条書きにして
その中から条件があうコンテンツとして白羽の矢が立ったのか。
……てなことを言いたくなるくらい、
角川文庫の作家ではないイメージの作者だが、
デビューは角川学園小説大賞という、立派なスニーカー文庫畑の出。
(今ぐぐってみたら林トモアキが同期でちょっと驚いた。そいやそんなもんか。
ちなみに同氏著の「ばいおれんす☆マジカル〜核の花咲く日曜日〜」は
原子力発電所メルトダウン魔法少女が生身で突っ込んで防ぐ話。
蛮勇引力の丸橋忠弥同様、2011年3月以降の日本で、もう少し話題になっていいんじゃないのか)


話が脱線したが、アニメ化大当たり記念で今回はコレ。

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

面白そうだなと思ってはいたのだが、購入に今一つ踏み切れずに時は過ぎ
2012年の2月あたりに、偶然店頭で見かけたのでご祝儀で購入。
色々あろうが、やっぱり紙の書物を積んである本屋という存在は大事だよね、
などとエダルトのようなことを思ったり。


さて本題。
北海を望むイングランドの島、ソロン諸島で、領主ローラント・エイルウィンが殺された。
それはある意味、予期された出来事だった。
繁栄するソロン諸島を狙う何者かにより、島の防衛が脅かされる事件が続いており、
ローラントの命を狙うべく、異国の魔法に通じた暗殺者が雇われたとの報告が
教会騎士ファルクによってもたらされていたからだ。
ローラントが殺された現場=小ソロン島は、領主とその関係者しか居住できない、
ある意味、密室状態の島。
外来者が滞在するソロン本島は、島の防衛のため雇われた複数名の新参者=傭兵が滞在していた。
この傭兵がそれぞれ、自称魔法使いやら自称騎士の実質盗賊やら、
しまいにゃ自称もできない=言葉の通じないマジャール人やら、クセのある人物ばかり。
さらに、実際に殺人を行ったであろう暗殺者の手先=走狗(ミニオン)は、
魔法によって操られている状態の人物で、自分がローラントを殺したという記憶も自覚もない。
「走狗」は誰なのか。
外部の者だとしたら、どうやって小ソロン島に渡ったのか。
そして、恐るべき襲撃者たちから、ソロン島は無事に防衛されるのか。
教会騎士ファルク、ファルクの従士ニコラ、そしてローラントの娘アミーナの三人が
この謎に挑む……!


いやぁ、面白くてあっという間に読み終えてしまいました。
魔法といっても便利な万能系でもアニメでおなじみ火力系でもなく、
ドラえもんの「翻訳コンニャク」や「スモールライト」程度の便利なガジェット扱い。
結局、大事なのは地道な材料集めとその組立になります。
これが実に秀逸。例えるなら
「ドラキュラは鏡に映らないから、バックミラー越しに姿を確認された人影=犯人ではない」的な
ファンタジー世界の素材と推理小説の理論詰めを融合させた、実に良質なエンターテイメントになっている。
そして、小説としてのクライマックスはもちろん、犯人明かしだが、
中盤近くの、ソロン島攻防シーンが大いに盛り上がる。
不死軍団相手に剣だ弓矢だ斧を振り回す美少女が大健闘、
あげくにゃ青銅の魔人が出撃!ロボだぜロボ!ひゃっほう!
いやぁ、バトルのインフレ化って本当にいいものですね。
……かくて、襲撃を無事に押し返し、犯人も明かされるわけですが、
どんでん返しのほろ苦さの中に一筋の灯明が点る結末となっております。
誰が犯人だとしても、一緒に襲撃を乗り切った戦友なわけですから。
キャラクター的に一番気に入ったのは、マジャーン人のエンマでしょうか。
女王様かっこいいです。戦いのメイクッ!(ちょっと違う)


しみじみ思ったのだが、ミステリーというジャンルは、事件が起きてそれを解決するわけだから
キレイに終わっても不幸な時空間を日常まで戻す程度で、どうしても事件の傷痕は残るのだな。
ラノベに向かないのは、このあたりに一因があるのかもしれない。
それをカバーする一つのアプローチとして、
最初から日常じゃない人々の居る空間にする=戯言シリーズなんかが出てきたのかも。


作品の難を挙げるなら、タイトルが無理やりすぎることと、
あともう一つ、牢獄の中から人間が消えた一件がベタすぎることかな。
気になったとしたらそれくらい。
ともかく、久々に読み応えのある作品でした。splendid。
お値段分の価値は十分にあり。