「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アヴェンジャー」

見てまいりました。
ネットでは「海外での興行成績が想像以上」「アメリカ万歳的なものから距離を置いた内容」との評判だったが
やはりアンクル・サム的な「I want you for US Army」のノリは作中で健在だった。
(というか、エンディングテロップに、アンクル・サムの絵そのものが使用されている)
ただし、全編がそのノリで貫かれているわけでもないのも確かな事実のようだ。
脚本がずいぶん難航したと聞いているが
血清で超人キャプテン・アメリカ誕生!〜ショウビズ界隈で戦費稼ぎの国債売りに勤しむ、のあたりは
色々紆余曲折があったんかなぁと思ったりしなくもない。
んでその後、親友バッキー(本来はバットマンにおけるロビン的存在のキャラ)が捕虜になったと聞いて
単独で敵の秘密基地に突っ込むあたりから、世界市場に配慮した流れに変わってゆく。
捕虜の中の、軍服着てるくせに山高帽を手放さないおじさんはイタリア系という記号なのだろうし
女の子大好きなフランス語をしゃべる人は当然フランス人
そしてフランス語が堪能なアフリカ系(アフリカのフランス系植民地出身?)
東アジア系もちゃんといて「日本兵まで捕虜に?」と突っ込まれている。
(出身地は××だ、と馴染みのない土地名を答えていたから、アジア系アメリカ人という設定なのだろう)
一方のドイツも「ヒットラーを暗殺してその勢力圏を引き継いだレッドスカルの支配下」という設定で
それなりの配慮が施されている。架空戦記ですな。
かくて「キャプテン・アメリカと愉快な非WASPたち」のノリで以降の物語は展開してゆくことになり、
民間の技術協力者として、アイアンマン・トニースタークの父ハワード・スターク
ヒロインとして、ペギー・カーターが配置されている。
また、トミー・リー・ジョーンズが鬼教官的ポジで画面を引き締めている。
映画全体としては『もっとダメなシロモノになったかもしれないのを、上手にまとめた』といった印象。
少なくとも過去に何作が作られたキャプテン・アメリカの映画とはくらべものにならない、良い出来だと思う。


個人的に考えさせられてしまったのは、物語前半の「アメリカ国債を買おう!と宣伝するキャップ」のシーンだ。
エンターテイメントの国らしく、国債宣伝もミュージカル仕立てになっているのだが
これが古き良きアメリカ映画といった雰囲気で、割と心地よい。
ビッグバンドの演奏に合わせてコーラスガールの声が幾恵にもハーモニーを重ね
ずらりと並んだショーガールたちが青と赤のストライプに星をまとって立つ様子は
MGMのワンシーンと言われても違和感がないほど、しっくりと来る。
そういえばジーン・ケリーフランク・シナトラで有名な「碇を上げて」も
休暇中の海軍の兵士が主人公の話だ。
「踊るニューヨーク」や「姉妹と水兵」もあるし、
あの頃のMGMミュージカルは、決して戦争と無関係ではなかった。
そうやって考えると、MGMミュージカルの背景にはもしかして
水兵さんステキ=戦意高揚という文字が巧みに隠れていたりしたのだろうか?
その後、敵国だった日本でそのまんま公開しても違和感がないほど、こっそりと。
……ううむ。
エンターテイメントと政治という奴は、無関係じゃないことの方が多いのだろうか?
日本があまりに野放し、暢気なだけで。
そして、さらに複雑なことに、
戦意高揚を目的で作られた映画であろうが、いや、下手をするとそれ故に(話の筋が単純)
面白い映画は、やはり面白いのだ。
ボルジア家の圧政下で生み出されたルネサンス芸術は、素晴らしいように。


そんなことを考えながら、EDのアンクル・サムをしみじみ眺める自分でありました。