これがホントの「グリーン・レクイエム」

そういや新井素子ってほとんど読んだことがないな。
主人公の相手役が太一郎で、広川太一郎リスペクトだということで
「通りすがりのレディ」に目を通したくらいだ。


玄関の脇、西日がよく当たる、庭とも呼べないスペースに
以前から緑色の植物がヒョロリと一本だけ生えていた。
外見から、草の類ではない、樹木か何かだろうとは判ったが、
邪魔なのでと毎年夏頃には刈ってしまっていた。
その植物が今年の春に、花をつけた。
「こ……これは、ユキヤナギ?!」
花が咲けば間違えようがない、一目でわかるユキヤナギ様だ。
現在借りている物件は、大きな家があったのを壊して二軒の家を建てた所なので、
元々ここに咲いていたユキヤナギが根っこだけ残っていたのだろう。
そうと判れば刈るわけにもいかずに放置していたら、これが伸びる伸びる。
あっという間に玄関脇にこんもりと緑の塊が形成されてしまった。
何なのこの増殖っぷりは。


増殖したのはユキヤナギだけではない。
この玄関脇の空間には、オレンジ色の花を付けるラン科と思われる植物が
毎年、1,2本だけ生えてくるのだが、これがまた今年は大当たり。
7〜8本の鋭角の緑の葉が、天に向かってその先を伸ばしている。
なぜ、こんなに玄関脇の植物が元気になったの?。特に手をかけたワケでもないのに。
不思議に思っていたのだが、ある時はっと思い当たることがあった。
……カボチャだ。


昨年の今頃、この玄関脇の地面に、ひょっこりと双葉が顔を出した。
他の草とは明らかに違うその様子に、抜かずに放っておいたら、
双葉はすくすくと成長し、あたりにツルを伸ばし始めた。
葉の形はキュウリに似ているが、ウドンコ病にかかる気配がない。
(そういえば以前、このあたりにカボチャの種を埋めたっけ?)
市販のカボチャの実は料理して、種をここらに捨てたというのが正しいかもだが。
そのカボチャの種が一つだけ発芽したのだろう。
肥料は特に施さず、水はこまめに施す程度で放置しておいたら、
このカボチャが大繁殖。
地面にツルが伸びると邪魔なので、玄関脇に設置されている電話か何かのケーブルに引っかけておいたら
(おいおい)
それでもツルが伸び放題、葉を茂らせて黄色い花も咲き放題。
ツルは5〜6メートルの長さにおよび、それでも長いので何度か切ったと思う。
本来の育ち方ではない空中にツルを伸ばしてこれなのだから、
地面に這わせたままだったらどれほど成長したのやら。


もしかしてあのカボチャの大繁殖が、痩せた玄関脇の土に何らかの作用を及ぼして
(根の繁殖で土が柔らかくなるとか、地中で腐った根が栄養にになるとか)
今年は他の植物の成長が良くなったのだろうか。


問題のカボチャは大量の花を咲かせはしても、その殆どが結実しなかった。
地面に近いところに一つだけ、小さな実がついたのだが、
何となく食べる気にもなれずに放っておくと、いつの間にか虫に食い荒らされて草ってしまった。
……事ここに及んで、その腐った実を捨てたあたりを調べてみたが、
実からこぼれた多数の種も、殻だけを残してぺしゃんこになっていた。
種の中身まで虫に食われたのだろう。


考えてみれば。
私が買うカボチャはほぼ100%メキシコなどの外国産だ。
あのカボチャは遙か海外で育てられ、日本に運ばれて割られて店頭に並べられ、
子供のげんこつ程度の量はあった種の中からたった一つが発芽して、
ネコジャラシしか生えないような玄関脇の土壌で、あそこまで成長したのだ。
それ事態がケッ越して高確率ではない出来事だろうに
(この手の商業用植物は、種子メーカーの優生学的工夫により、簡単に二世が作れないようになっていると聞いている)
それなのに私は、たった一つだけ結んだその実を無下にしてしまった。
可哀想なことをした。


梅雨の雨を受け、玄関脇の植物たちはつややかな緑色を呈している。
夏になれば、さぞかし大きく伸びるだろう。
その緑を見るたび、私はこの繁茂の礎となったかもしれない、カボチャのことを思い出だろう。
生きようと、子孫を残そうと必死に努力したのに、何ひとつ報われなかったカボチャを。
一夏の徒花を。