めじろ、一羽きり

(衝撃的な内容が含まれています)
狭いながらも楽しい我が家には猫がいる。
仮称『プリンセス』『お兄ちゃん』『パニック体質』の3匹。
基本室内飼いなのだが、手を変え品を変え、こちらの目を盗み隙を衝いて
脱走を試みて下さる。
おかげで少しの間姿が見えないと、また脱走したのではと慌ててしまい
こっちがパニック体質になりつつある状態だ。


さて、そんな三匹がまたもや脱走した。
うっかり鍵をかけ忘れた引き戸を開けたのだ。
(こういう事をするのは基本『プリンセス』。知能犯め)
気づいた時には三匹そろって屋外ライフを満喫していた。
それほど遠くに行くわけでもなく、庭の草を食べたり
空き地の一角で仰向けになり、体をくねらせたりといった
ごく普通の猫の所作だ。


だが、今の時期だけの問題があった。
庭に吊してあるリンゴやミカン目当てに、
メジロヒヨドリがやってきていたのだ。
結果、何が起こったかというと……


脱走した猫たちになすすべもなく
玄関先に座り込んでいる自分の目の前に
興奮してうなり声をあげながら『お兄ちゃん』が現れた。
その口元から……メジロの、黄緑色の羽根が覗いていたのを見て
自分は思わず「ああっ!」と声を上げた。
こういう時は褒めてやるのだと判っていたつもりだが、
その声に非難の調子が込もってしまったのは、
取り返しのつかない過ちだった。
……実は何年か前、やはり脱走後スズメを獲ってきたこともあった。
この時は一度室内に持ち込んで、口から離したのだ。
埋めてやろうと庭に出た瞬間、手の中から飛びだっていき
これ幸いと胸をなでおろし、一件落着となったのだ。
……だが、今回は、自分と玄関先で出会った上、悲鳴を聞いて
『お兄ちゃん』は黄緑色の羽根をくわえたまま、
また外に出ていってしまった。
後悔と恐怖で追いかける自分。
普段通りの声で猫を呼んでいるつもりなのだが、
脱走した=悪いことをしているという自覚がある上
獲物を捕って興奮状態&非難されたという事実が加わって
もう『お兄ちゃん』は立ち止まりも振り向きもしない。
そのまま駐車場の車の下に潜り込んでしまった。
どうすればいいんだ、と立ちつくす自分。
棒か何かでつついて追い出しても『お兄ちゃん』は捕まえられない。
メジロをくわえたまま、どこかに逃げ出すだけだ。
何より、いじめられたと思って家に戻らなくなるかも。
……などと思っているうちに、車の下から、嫌な音が聞こえてきた。
小枝を折るよりもう少し軽い、乾いた音だ。
……ああ、助けられなくなってしまった。


『お兄ちゃん』がスズメの時のようにメジロを置く=自分にくれなかったのも
メジロを死なせたのもショックだった。
猫を飼っている人間が庭に野鳥を呼ぼうとした結果がこれだと
いろいろな生き物を愛でようとした罰だと
何かに糾弾されたような気がした。


そして、自分が庭先に降りると、
葉の落ちた紅葉に降りてくるメジロは、一羽きりになってしまった。
……どんなに詫びても詫び足らない。ごめんよ。
自分は裏切り者なんだ……


調べてみたら、メジロは鷺や鴛鴦のように生涯一つがいではないようなので
そのうち次の伴侶を見つけるだろうけど。
でも、殺されたメジロには償いようがないワケで。


愛猫を膝に抱いていて、ふと
「いつかこの猫を失う時がくる」と思うと
なんとも言えぬ恐怖に襲われるが
今回のようなことがあると、猫の罪深さを思い知らされる。
原罪とやらではないが、死をもってしか帳消しできない罪業を重ねているのだ。
(肉や魚を食べる)私たち人間も。
……なんで地球の生命は、こんな風に進化してしまったのかなぁ。
光合成ができるようになりたい。