マリインスキー2種

要するにガラ公演を両日見てしまったわけだが
(好きでこんなコトしたんじゃねーやい!
チケット取った後で詳細が発表されたら
どうしても見たい演目がチケット取らなかった日にあって……)
んで、両日を見終わって一番記憶に残っているのが
「シェヘラザード」な訳です。
同じ演目だし、大変に魅力的なコンテンツだったが
両日の違いが際だって感じられたのですな。



キャストは
*王妃ゾベイダ…………ウリヤーナ・ロバートキナ(12/10)
               ディアナ・ヴィシニョーワ(12/11)
*黄金の奴隷……………ダニーラ・コルスンツェフ(12/10)
               イーゴリ・コールプ   (12/11)
シャリアール王のキャストも異なるけどこっちは掘り下げないので割愛。
王の弟や宦官長、オダリスク(女奴隷)は一緒。


あらすじをざっと説明すると、
 シャリアール王が弟を引き連れて狩に出かけた留守の間に
 女奴隷は宦官長を買収して、ハーレムに男の奴隷を引き込む。
 王妃ゾベイダもまた、黄金の奴隷を引き入れ、快楽にふける。
 酒に料理に踊りにと、酒池肉林のまっ最中、とつぜん王が帰還する。
 王と王弟は、前々から王妃の不貞を疑っていたのだ。
 宴に居合わせた者は、女奴隷も給仕人も誰彼かまわず処刑され
 黄金の奴隷も、王の弟によって斬り殺される。
 そしてゾベイダもまた、王の意志が硬いのを知ると自害するのだった。
全一幕の40分程度のコンテンツ。
音楽はリムスキー・コルサレフの「シェヘラザード」を使っているが、

R.コルサコフ:シェエラザード

R.コルサコフ:シェエラザード

第一楽章以外は踊りに合わせて刈り込まれている。
また、第一楽章は舞台の序曲代わりに使用されている。
(↑10分以上……正直長かった!)
余談ながら元来の「シェヘラザード」別名「千一夜物語」は、
妻を娶っては一夜で殺す女嫌いの王の妻となったシェヘラザード姫が、
夜ごとに王に語った物語を集めたものとされているが
このマジキチ王の名前がシャリアール。
妻に不貞を働かれたことが原因で、シリアルキラー化したという設定だ。
つまりバレエ「シェヘラザード」は、物語「シェヘラザード」の前日談なのだろう。


さて、まず10日組の印象。
ゾベイダが扉を解放すると、飛び出してくる黄金の奴隷
……おおぅ、マッチョ……
目を見張るほど筋肉ムキムキというほどではないが
バレエの舞台では目を見張るレベルと言っていい位には、
コンスンチェフの肉体はマッチョだ。胸板は厚く、腕は太く、上背もある。
その大男が、ゾベイダの姿を見るやいなやその足下に走り寄り、
顔を伏せたまま床に這いつくばるのだ。
この最初の構図が、ゾベイダと黄金の奴隷の個性を表現していると言っていい。
「奥様!もったいのうございます!」とひたすら恐縮する黄金の奴隷を
ゾベイダは誘い、煽り、昂ぶらせてゆく。
一発××した(明らかにそう見える!)後もまだ、緊張の残る黄金の奴隷に
酒もガンガン飲ませる。少なくとも2杯は飲ませている。
酒の力か、給仕人や楽人がにぎやかしたせいか、
あるいは何回か××して腹がすわったのか、
やがて黄金の奴隷は、他の男奴隷と一緒に踊り始めるのだが、
この動作もまた「奥様のご所望なら!」「奥様、貴方に捧げます!」といった
ゾベイダへの崇拝が滲み出ている。
とにかく、ガタイはデカイが心は純情な黄金の奴隷と
優麗な女主人・ゾベイダといった印象だ。
個人的には、黄金の奴隷に一杯目の杯を与えるシーンが
妙に色っぽく感じられた。
向田邦子の言葉で「蜘蛛が巣を張るのもセックスなら
同じコップの水を飲むのもセックスなんです」という名言があるが、
この仕草はまさしく、性行為の暗喩なんじゃなかろうか。


そんな興奮もさめやらぬまま、11日組を見たのだが、
……もう前ふりから違う。
王が狩支度をしている間、昨日のゾベイダは王に背を向けて
クッションの上に座っているだけだったが、
今日のゾベイダは鏡を見ながら化粧を直している!
旦那が出かけるのにお化粧直し。それは不貞を疑われるだろう。
他の動作も、11日のゾベイダは10日に比べ、奔放な性格のようだ。
たとえば宦官を買収するシーンも、真珠の首かざりを引きちぎるように外すと
そのままエイヤッと床に投げつけている。
10日のゾベイダは、まるで首飾りのたまゆらを響かせるように
シャラリと胸からつまみ上げてみせた。
まるで、胸の谷間から取り出したように見えて「おおう不二子ちゃん」と思ったものだ。
そして扉が開き、黄金の奴隷が飛び出してくるのだが、
……明らかに昨日とは様子が違う。
舞台を一気に横切って下手でポーズを取った後、中央のゾベイダまで走り寄り
足下にひれ伏すという流れは一緒なのだが、
11日の黄金の奴隷は顔を伏せない。
体だけは這いつくばったまま、鋭い目つきで周囲を睥睨する。
いわば「奥様?! 何だコレ、罠っ?! カメラはどこだ!」状態。
全身からギルティっぷりというか、危険な気配が溢れ出ている。
この黄金の奴隷、ゾベイダとやらかすのは初めてだとしても
他のオダリスクや給仕女を喰ったのは一度や二度じゃないといった気配。
こんな危険人物を家に置いて出かけるシャリアール王がどうかしていると思わされる。
その後の動作の一つ一つも、野性味溢れているというか、餓えている雰囲気がある。
10日の黄金の奴隷が「敬愛を込めて愛撫する」と喩えるなら
11日は「ガツガツと柔肌をむさぼる」とでも言えば良いのか。
……そうだな、ちょっと極論なのかもしれないが、
10日のゾベイダと黄金の奴隷は、お互いに与え合った間柄なら
11日のこちらは、お互いむさぼり合う関係かも……うわ(*^_^*)書いてて恥ずかしい!
ここまで観客に読み取らせるのは、やはり11日の黄金奴隷、コールプの力量だろう。
「むさぼる」という単語を連想したのは、彼がゾベイダの太股に手を這わせる動作からで
食い込むほどキツくはないのだが(そんなことしたら痛いし踊れないよ!)
指の曲がり方がまるで、獲物を捕らえて離さないケモノ、といった風情だったのだ。
……今思ったが、タンゴみたいだな。11日のゾベイダと黄金の奴隷。
心はそれほど寄り添ってないが、肉体が押さえられずエラいことになっているカンジ。
まぁ、一事が万事こんな調子で、
10日の黄金の奴隷が「奥様!」なら、11日の黄金の奴隷は「奥さん……」。
ゾベイダに誘われて燃え上がってゆくというより
「ああ、その気もその気だったんだ。なら好都合だ。いただくぜ」みたいな。
能動的というか、しょっぱなからその気というか。
つーか奴隷の態度じゃないよな、コレ。
奴隷の身分でも、精神的には屈服していない。
そしてゾベイダを目上と崇めていない。自分と同じ人間として扱っているのだ。
これがチンピラの虚勢ではなく、内部から湧き上がる男の自信として受け手の目に映るのは
やっぱりコールプの力量だろう。
一挙手一投足をすべて計算しつくして演技しているのだろうし、
やっぱ本人にも風格があるのではなかろうか。


まぁ、そんなカンジでコールプに圧倒された11日目の「シェヘラザード」でした。
演出としては10日の「純愛・一度きりの逢瀬の後死す!」な方が好きだけど、
気迫と情念の11日に軍配を上げざるを得ない……
いやはや、本当に素晴らしいものを見せていただきました。
バレエ・リュス100年目の締めくくりにふさわしい演目をありがとう!


んで帰宅途中につらつらと考えるワケです。正統派の演出はどっちなのかと。
たーしか家にシェヘラザードのDVDあったよなー。
黄金の奴隷はファルフ・ルジマトフだったよなー。
どれ、見比べてみるとしましょうか。
……と、思ったのだが、今回がもー予想外に長くなってしまったのと
年明けになると思ったボリショイ・バレエのDVD(シェヘラザード入り)が
あっさり手に入りそうなので、DVD比較合戦をやることにするよ!