本日のタイトルになっているこの言葉を、どこで読んだかは覚えていない。
ただ、ストリートダンスが流行し始めた、98年の春〜夏頃に
それについて日本人が書いた文章の中にあったと記憶している。
確か優香ちゃんが(安室の旦那さんですらなかった)SAMと
「RAVE2001」というダンス番組の司会をやっていた頃だ。



こんな言葉を久々に思い出したのは
「RIZE」という映画を見たせいだ。
ロサンジェルスダウンタウンの黒人の若者達の間のストリートダンスを
クラウンダンス(CROWN DANCE)クランプダンス(KLAMP DANCE)を中心に
取材したドキュメンタリー映画である。
  クラウンダンスは読んでその通りのクラウン(道化師)の格好をする。
顔にもペインティングを施しているが、
そのペインティングは滑稽、ユーモラスといった形容詞とはほど遠い
攻撃的かつクールなペインティングだ。
松たか子版「贋作・罪と罰」で宇梶剛士が演じた溜水石右衛門のメイクにかなり近い。
……マイナーな例えだなぁ。
歌舞伎のような白塗りに、ストリートペインティングでよく見かける
文字とも絵とも判別できない記号を書いていると形容するのがわかりやすいか。
上遠野浩平自身がイメージしてする、ブギーポップの白塗りメイクは
おそらくああしたものだと思う。
  それに対するクランプダンスは、化粧はしないし格好も普通だ。
元はクラウンダンスから派生したもので、
クラウンダンスが人を楽しませたり、誕生日パーティで踊るのが中心なのに対して
クランプダンスは自分の感情の吐露であり、路上などで突発的にセッションが発生する。
(パンフレットが売切だったので詳しい資料が手元にない。違ってたらご容赦)


フランスの若者に負けず劣らず、アメリカの貧困層の若者の生活も悲惨だ。
クラウン・ダンスの創始者、トミー・ザ・クラウンがダンスを始めたのは
生活のためクラウンとして誕生日パーティに呼ばれるためだし
彼の片腕は「この街で金を得るにはギャングになるか、クラウンになるかだ」と言う。
クランプ・ダンサーのセッションが毎日のように行われるのも、
「バスケット以外に娯楽がないから」なのだそうだ。
特に、クラウンダンサーズ達が「バトルゾーン」というダンス大会で優勝したその夜
(余談だがテレビ東京で深夜に放映されている「BLOOM!」は
 明らかにこの「バトルゾーン」を下敷きに構成されている)
トミー・ザ・クラウンの家に泥棒が入って家財道具を持ち去るあたりは、
どんなジェットコースター・ムービーでもやらない惨たらしい展開だ。
現場検証にきた黒人警官の慰めの言葉が、また凄まじい。
「君がこんな目に遭ったのは、正しいことをしたからだ。
 災いは、正しいことをした者にしか訪れない」
こんな現実を映し出すスクリーンの前では、日本人はただ硬直するしかない。



ドキュメンタリーである以上、映画はハッピーエンドで決着を付けたりしない。
トミーは家を追い出されアパートに引っ越し「再出発だ」とカメラに語りかけ、
クランプ・ダンサーズは屋根のない場所でただ踊り続ける。
誰からもステップを教わらず、何の影響も受けず自発的に発生した彼らの踊りは
それゆえにハリウッドやブロードウェイでは受け入れられないだろう。
(一部のみが取り上げられることはあるかもしれないが)
どこにも続かず、何のムーブメントも生み出さない彼らのムーブメントは
彼らの苦しみや悲しみの叫びそのものだ。
私たちにできることがあるとしたら、
彼らのダンスを、彼らの叫びを記憶に留めておくくらいだろうか。


RIZE」の東京での上映は終了してしまったが、
機会があったら是非見ることをお勧めしたい作品だ。