という訳で、トップは「ブロ−クバック・マウンテン」。

<あらすじ>
長期に渡る放牧の間に、恋に落ちたカウボーイのイニスとジャック。
放牧生活が終わった二人は、別々に社会で暮らし始め、
職を見つけ、結婚し、子供も持つのだが、
お互いのことが忘れられず、逢瀬を重ねてゆくが……


ううーん……
主人公、イニスの心理的苦痛は伝わってくるし、理解できるが
彼と同じくらい、あるいはそれ以上に
イニスの周囲も苦しんでいるので、
同情や共感といった感情が湧かない。
むしろ「なぜそこで手を差し伸べてやらない!」と
イライラする場面が幾つかあった。


イニスの周囲の苦痛は、イニスが積極的に与えたものではないが、
イニスが「何もしない・動こうとしない」ことによって生まれたものだ。
(夫が自分を騙していると知って苦しみ続けた妻
 恋人が一緒に暮らすつもりがないと悲しむジャック
 再婚した母と義父からプレッシャーをかけられていると暗に訴えた娘)
幼児虐待でいうならネグレクトというヤツではなかろうか。


映画終盤になって、イニスはようやくその重い腰を上げ、旅をする。
その旅先で、ジャックの両親に会い、彼らの心を溶かしはするが、
遅きに逸した気がしてならない。
(ちなみにこの旅の主目的は結局果たされずじまい)


ワイオミングの自然は美しかったし、
カウボーイの同性愛というのは面白いテーマだと思うが
アカデミー賞本命と言われるほど素晴らしいかと言われると、ちと疑問。
この「この程度なの?」感覚は、
ピアノ・レッスン」を見た時と通じるものがある。
あの作品も、夫や子供を顧みず、
自分のピアノとその新しい持ち主の男だけに執着するヒロインに失望したものだ。


ちょっと一言:イニスとジャックが初めて関係を持った夜に
放牧されていた羊が狼に殺されてしまうというのが個人的に苦笑い。
子供のいる女が夫以外の男と関係を持った後、子供が事故で死ぬのは
東西を問わずドラマのお約束と言ってもいい展開な訳だが
まさかゲイの恋愛においてもこの法則が発動するとは。