映画感想第2弾は、奥田瑛二監督「るにん」

http://runin.jp/

江戸時代の八丈島に流されてきたばくち打ちの男・喜三郎は
元女郎の豊菊に惹かれ、
「こんな所で死ぬのは嫌だ」という彼女の望みを叶えるため、
未だかつて誰も成功したことのない島抜けを決意する。
男娼・光、もう一人の女郎・花鳥、さまざまな流人を巻き込んで
物語は展開してゆく……


映画は、上記リンクのトップに出てくる八丈島のロングショットから始まる。
風と海の狭間にポツンと存在する緑の塊、
そこから感じる印象は、雄大大自然とか美しい緑とかいう単語からかけ離れた
荒涼とした、背筋が凍るような眺めだ。
最果てという言葉すらも通り越して、
むしろ何かの悪い夢ではないかと思いたくなるような光景だった。
「リング」の貞子ビデオに出てくる三宅島を思い出していただけるとありがたい。
ショッキングさはないにせよ、あのノリの不気味な映像がいきなり出てくるのだ。
役者出身の監督だと軽く考えていた自分は、この冒頭で認識の甘さを思い知らされた。


監督本人は「男と女の愛を描きたかった」とあちこちで言っており、
ストーリーも豊菊と喜三郎を中心に展開してゆくが、
この映画の主役は八丈島というこの世の果てであるように思う。
島抜けをたくらんだ罪人が処刑される急斜面の崖、
喜三郎が海を眺めつづける草原、
少女たちが裸でたわむれる滝ですら、どこか荒涼としている。
おかげで、邦画お約束の過剰なエロサービスに
「ああやっと室内シーンになった」と安堵感を感じる始末だ。
いや、あの狂気のような大自然の前では、
しつこいくらい人間の生命力を誇示して、ちょうど釣り合いが取れていたと思う。


だからと言って、人間の描き方が足りないわけではない。
物語の終盤に、花鳥の母親が出てくる。
セリフの数が両手で余るようなチョイ役だが、そのワンポイントで
母親の盲目な愛情、人の身勝手さ、欲深さを見事に表しており、
人間とはなんと複雑な生き物なのかと考えさせられてしまう。


物語はハッピーエンドでは終わらないし、
島抜けのシーンにはカタルシスもなく、
見終わって爽快な気分になるとは言い兼ねるが、
素晴らしい傑作であることは間違いない。
現在、奥田瑛二監督は新作を撮影中で、
出演者は緒形拳高岡早紀松田翔太と期待できそうなメンツばかり。
完成が実に楽しみだ。


ちょっと一言:終盤、喜三郎が捕縛されるシーンは、
ポーズといい脇腹を槍で刺される所といい、
明らかにキリストを象徴していると思うのだが、
その意図する所がわからない。
殉教者ということなのだろうか。しかし何に殉じたというのか?
彼は、実は豊菊自身を愛していたのではなく、
豊菊の中の闇……彼女がもたらすだろう破滅を欲していたと思うのだが。