少し切ないお話(自分限定)

出歩いた時に歩け歩けという訳で、地下鉄の3駅分くらいは歩くようにしている。
そんな自分の歩くぜ一万歩ルートには、自分のお気に入りの景色やにゃんこポインツがあり
定期的に巡回しては存在を確かめて満足している訳だ。


そんなスポットの一つに、アールヌーボーアールデコのアンティークショップがある。
夜に通りかかることが多いのだが
ガレのランプが室内・室外に向けて、灯台のように優しい光を投げている。
ラリックの透明なガラスの上ではニンフが踊り、
入り口陰のちょっと隠れた所には、木立を描いたドーム兄弟のランプが点り
ちょっとした美術館並みだ。
この通りはほとんど人気がなく、
たまに通る人々も急ぎ足で通り過ぎてしまうので、
この夢のような光景は、いつも自分の独り占めだった。


で、今夜もそこを通ってみたのだが、ランプの配置が微妙に変わっている。
ラリックのランプがなくなっている。
……売れちゃったんだなぁ。


そうだよなぁ。
美術館じゃなくて、お店だもんなぁ。
いつまでも同じ品物があったらむしろ問題だよなぁ。
と、頭で判ってはいても、
胸にこみ上げてくる寂しさ、悲しさ。
もう二度とあのラリックのランプには逢えないのだ。
こんなことならもっとよく見て、隅々まで覚えておくんだった。



この切なさは、野良猫との別れに似ている。
いつも通りかかるとそこにいるから、いつまでもいつでも会えると思いこんでいると
ふと姿を現さない日々が続き、
やがてその場所は他の野良猫のテリトリーになり、
ようやく自分は猫がいなくなったことに気付かされるのだ。


こんな別れと出会いを繰り返して、一生は続くのだろうが、
別れの数が増えても胸の痛みは軽くならないどころか
年を取って精神がもろくなった分、堪える一方だ。
やぁれやれ。